静岡地方裁判所 昭和41年(ワ)84号 判決 1970年2月13日
原告
片山常
ほか六名
被告
河守恒夫
ほか二名
主文
被告河守恒夫、同株式会社伊藤興業は、連帯して、原告片山常に対し、金六一万五五九四円、原告片山喜代子、同片山明夫、同水田順子、同片山成明に対し、各原告ごとに、金三六万一四二五円ずつ、原告増田銀蔵、同増田かまに対し、各原告ごとに、金一二万円ずつ、および、原告七名に対し、それぞれその原告に対して支払うべき右各金員に対する昭和四〇年二月二日から右各金員支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
原告七名の被告河守恒夫および被告株式会社伊藤興業に対するその余の請求ならびに被告上田大城に対する請求を棄却する。
訴訟費用は、原告七名と被告上田大城との間においては、原告七名の負担(原告片山常が六、原告片山喜代子、同片山明夫、同水田順子、同片山成明が各三、原告増田銀蔵、同増田かまが各一の割合による分割負担)とし、原告七名と被告河守恒夫、同株式会社伊藤興業との間においては、これを二分し、その一を原告七名の負担
(上記と同じ割合による分割負担)とし、その一を右被告両名の連帯負担とする。
この判決は、原告片山常が金二〇万円、原告片山喜代子、同片山明夫、同水田順子、同片山成明が各金一二万円ずつ、原告増田銀蔵、同増田かまが各金四万円ずつの担保を供するときは、それぞれその原告勝訴の部分について仮に執行することができる。
事実
第一、当事者双方の申立
一、原告七名
「被告らは、連帯して、原告片山常に対し、金一五三万一三八三円(ただし、被告上田は、金一四八万一三八三円)、原告片山喜代子、同片山明夫、同水田順子、同片山成明に対し、各原告ごとに、金七四万八五七六円ずつ、原告増田銀蔵、同増田かまに対し、各原告ごとに、金一五万円ずつ、および、原告七名に対し、それぞれの原告に対して支払うべき右各金員に対する昭和四〇年二月二日から右各金員支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言
二、被告三名
「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする」
第二、当事者双方の主張
一、原因
(一) 請求原因
1 昭和四〇年二月一日午後九時四五分頃、藤枝市八幡五一〇番地付近の国道一号線において、被告河守恒夫運転の普通乗用自動車(トヨペツトクラウン六三年式、京ぬ四五一二号。以下「被告車」という。)が停車中の訴外片山とら運転の原動機付自転車(ラビツト、以下「原告車」という。)に衝突し、右衝突により、原告車は、破損し、訴外片山とらは、頭部外傷等の傷害を受け、同日午後一〇時一〇分、右傷害により死亡した。
2 右事故につき、被告河守恒夫は、民法第七〇九条による不法行為者としての損害賠償責任、被告株式会社伊藤興業(以下「被告会社」という。)は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条による運行供用者としての損害賠償責任および民法第七一五条による使用者としての損害賠償責任、被告上田は、右運行供用者としての損害賠償責任がある。その理由は、次のとおりである。
(1) 右事故は、被告河守が被告車の運転席前のガラスや前照灯に泥土が付着し前方の注視および照光の障害となつていたのにその整備を怠つたまま運転した過失および前方に対する注視を怠つて運転した過失により発生したものである。
(2) 被告会社は、本件事故当時、被告河守および被告上田を雇つていたものである。
(3) 被告上田は、かねて訴外二宮兆から被告車を買い受けその引渡を受けて使用していたが、本件事故当時、まだ代金を完済していなかつたため、被告車の所有権は同訴外人に留保されていたものである。
(4) 被告上田は、本件事故の数日前、被告会社の業務のため東京方面に出張するに際し、被告会社に被告車の使用を許してこれを預けたところ、被告会社は、本件事故当日、被告河守の同日の帰宅と翌日の出勤に使用させる目的で、被告河守に被告車を貸し、被告河守において使用中、本件事故が発生したものである。
かりに被告上田が右出張に際し被告車を被告会社の取締役である訴外伊藤英生個人に預けたとしても、同訴外人は、本件事故当日、被告会社の業務の執行として、前記目的で、被告河守に被告車を貸したものである。
3 原告片山常は、訴外片山とらの夫、原告片山喜代子、同片山照夫、同水田順子、同片山成明(以下「原告片山喜代子ら四名」という。)は、同訴外人の子、原告増田銀蔵、同増田かま(以下「原告増田両名」という。)は、それぞれ同訴外人の父および母であるが、訴外片山とらおよび原告七名は、本件事故により、別紙損害額一覧表の「原告七名の主張」らん記載の損害を受けた。
4 訴外片山とらの死亡により、原告片山常が三分の一、原告片山喜代子ら四名が各六分の一の相続分で相続した。
5 原告片山常は、同原告が本件事故による訴外片山とらの傷害死亡により受けた損害につき、自賠法による保険金五〇万円の支払を受けた。
6 よつて、原告七名は、被告河守に対しては不法行為者の損害賠償として、被告会社に対しては第一次的には運行供用者の損害賠償、第二次的には使用者の損害賠償(ただし原告車の破損による損害については、単に使用者の損害賠償)として、被告上田に対しては運行供用者の損害賠償として、それぞれ別紙請求額および認容額一覧表の「請求額」らん記載の各金員および右各金員に対する不法行為の翌日である昭和四〇年二月二日から右各金員支払ずみにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 抗弁に対する答弁
被告ら主張の抗弁事実は、否認する。
二、被告三名
(一) 請求原因(3の事実をのぞく。)に対する答弁
1 被告河守
(1) 請求原因1の事実は、認める。
(2) 請求原因2の(1)の事実は、否認する。
2 被告会社
(1) 請求原因1、5の事実は、認める。
(2) 請求原因2の事実中、(1)ないし(3)の事実は、認めるが、(4)の事実は、否認する。
(3) 被告上田は、本件事故の数日前、出張に際し、被告会社藤枝工場敷地内に置いてある被告車を必要に応じ同敷地内で稼動させることができるようにするため被告車の鍵を訴外伊藤英生個人に預けたものであるから、被告会社は、本件事故の際の被告車の運行については自賠法第三条の「運行供用者」にあたらない。
(4) 被告河守は、一たん帰宅後私用の外出のために被告車を運転中本件事故を起したものであり、右行為は、被告会社の「事業ノ執行ニ付キ」なされたものとはいえないから、被告会社は、本件事故につき民法第七一五条による使用者としての損害賠償責任を負うものではない。
3 被告上田
(1) 請求原因1の事実は、不知。
(2) 請求原因2の事実中、(2)(3)の事実は、認めるが、(4)の事実は、否認する。
(3) 請求原因5の事実は、認める。
(4) 被告上田は、昭和四〇年一月三〇日、被告会社の業務のため千葉県船橋市に出張するに際し、被告会社藤枝工場内に置いてある被告車を必要に応じ同敷地内で移動させることができるようにするため被告車の鍵を訴外伊藤英生個人に預けたものであるから、被告上田は、本件事故の際の被告車の運行については、自賠法第三条の「運行供用者」にあたらない。
(二) 請求原因3の事実に対する答弁
別紙損害額一覧表の「被告三名の主張」らん記載のとおり。
(三) 抗弁
かりに各被告に損害賠償責任があるとしても、訴外片山とらは、本件事故の際、原動機付自転車の運転者としての義務を怠り、交通量の多い事故現場において夜間無灯火で原動機付自転車を停止させていたものであつて、右過失が本件事故発生の一原因となつているから、右事実は、損害賠償額の算定にあたつて斟酌されるべきである。
第三、証拠〔略〕
理由
一、昭和四〇年二月一日午後九時四五分頃藤枝市八幡五一〇番地付近の国道一号線において被告河守恒夫運転の普通乗用自動車(被告車)が停車中の訴外片山とら運転の原動機付自転車(原告車)に衝突し右衝突により原告車は破損し訴外片山とらは頭部外傷等の傷害を受け同日午後一〇時一〇分右傷害により死亡したことは、原告と被告河守および被告会社との間においては、当事者間に争がなく、原告と被告上田との間においては、〔証拠略〕によつて認めることができる。
二、そこで、各被告が右事故につき原告ら主張の損害賠償責任を負うかどうかについて判断する。
(一) 被告河守
〔証拠略〕を総合すると、被告河守は、右事故の際、自動車運転者としての注意義務を怠り、被告車の運転席前のガラスおよび前照灯に泥土が付着し前方の注視および照光の障害となつていたのにその整備を怠つたまま運転し、かつ、前方に対する注視を怠つて運転していたものであり、右過失が右事故発生の原因となつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
したがつて、被告河守は、右事故による損害について民法第七〇九条の不法行為者としての損害賠償責任を免れない。
(二) 被告会社
1 本件事故につき被告河守に原告主張のような過失があつたこと、被告会社が本件事故当時被告河守および被告上田を雇つていたこと、および、被告上田はかねて訴外二宮兆から被告車を買い受けその引渡を受けて使用していたが本件事故当時まだ代金を完済していなかつたため被告車の所有権は同訴外人に留保されていたことは、原告と被告会社との間において争がない。
2 〔証拠略〕を総合すると、次の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
被告上田は、本件事故当時、被告会社藤枝工場に勤務し、同工場に住み込み、平素被告車を同工場の敷地内に置いていたのであるが、昭和四〇年一月三〇日、数日間千葉県船橋市に出張するに際し、被告会社の取締役でその藤枝工場長である訴外伊藤英生に被告車を預けて留守中の管理を依頼した。
一方、被告河守は、本件事故当時、同工場に勤務し、平素は自己所有の原動機付自転車で島田市内の自宅から通勤していたのであるが、前記訴外伊藤英生は、同年二月一日、被告河守が同工場から帰宅するに際し、被告会社の業務の都合で被告河守が同日遅くまで勤務した上翌日早く出勤しなければならない事情にあることを考慮し、被告河守の同日の帰宅と翌日の出勤のために使用させる目的で、被告河守に対し、被告車を無償で貸したところ、被告河守は同日、一たん帰宅した後、友人とともにドライブインで飲食をするため、被告車に友人四名を同乗させこれを運転して藤枝市内のドライブインに赴く途中、本件事故が発生した。
そして、以上の事実を総合して考えてみると、訴外伊藤英生が被告上田から被告車を預りこれを被告河守に貸したのは、いずれも被告会社の機関としてしたものと認めるのが相当である。
3 そして、かように被用者が使用者からその管理している自動車を無償で借り受けこれを運転した場合には、その具体的運行が貸借の目的を逸脱したものであつても、使用者は、右運行につき、自賠法第三条の運行供用者にあたるものと解するのが相当であり、また、右被用者の行為は、民法第七一七条にいう「事業ノ執行ニ付キ」なされたものと認めるのが相当である。
したがつて、被告会社は、本件事故による損害について、自賠法第三条による運行供用者としての損害賠償責任および民法第七一五条による使用者としての損害賠償責任を免れない。
(三) 被告上田
1 前記(二)の1記載の事実(本件事故につき被告河守に過失があつたことをのぞく。)は、原告と被告上田との間において争がなく、前記(二)の2記載の各証拠によると、同項記載の事実を認めることができる。
2 そして、かように使用者が被用者からその占有使用している自動車を預り保管中これを他の被用者に貸しその者が右自動車を運転した場合には、右貸借が預け主である被用者の承諾の下になされたものでないかぎり、預け主である被用者は右運行につき自賠法第三条の運行供用者にあたらないものと解するのが相当である。
本件の場合について考えてみると、被告上田において被告会社が被告河守に被告車を貸すことを承諾していたことは、これを認めるに足りる証拠がない。
したがつて、被告上田は、本件事故につき自賠法第三条の運行供用者としての損害賠償責任を負わないものというべきである。
三、本件事故により訴外片山とらおよび原告七名が受けた損害の額についての当裁判所の判断は、別紙損害額一覧表の「裁判所の判断」らん記載のとおりである。
四、〔証拠略〕を総合すると、訴外片山とらは、本件事故の際、原動機付自転車の運転者としての注意義務を怠り、交通量の多い事故現場において夜間無灯火で原動機付自転車を停止させていたものであり、右過失が本件事故発生の一原因となつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
そこで、損害賠償額の算定にあたつて右事実を斟酌し、前項記載の損害額から二割を減じた金額(別紙請求額および認容額一覧表の「過失相殺後の額」らん記載の金額)を相当な賠償額であると認める。
五、訴外片山とらの死亡により原告片山常が三分の一、原告片山喜代子ら四名が各六分の一の相続分を相続したこと、および、原告片山常において同原告が本件事故による訴外片山とらの傷害死亡により受けた損害につき自賠法による保険金五〇万円の支払を受けたことは、被告河守および被告会社が争わないか、少くとも明らかに争わないところである。
六、したがつて、被告河守は民法第七〇九条による不法行為者の損害賠償として、被告会社は、自賠法第三条による運行供用者の損害賠償(ただし、原告車の破損による損害については、民法第七一五条による使用者の損害賠償)として、原告七名に対し、それぞれ別紙請求額および認容額一覧表の「認容額」らん記載の各金員および右各金員に対する不法行為の翌日である昭和四〇年二月二日から右各金員支払ずみにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
七、よつて、原告七名の被告河守および被告会社に対する本訴請求中主文第一項記載の金員の支払を求める部分は、理由があるから、認容し、その余の部分および原告七名の被告上田に対する請求は、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項但書、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 山本一郎)
損害額一覧表
<省略>
請求額および認容額一覧表
<省略>